

メニューはコーヒーだけ、営業は週4日だけ。熊野古道の宿場町・近露の「CABELO」
SEN.RETREAT CHIKATSUYUでは、朝食の食材と合わせて、コーヒー豆をご提供しています。
ミルで豆を挽き、ドリップして淹れたコーヒーは、大自然の中で飲むという環境も相まって、いつもと違った味わいを楽しめます。
その豆を届けてくださっているのは、宿近くにあるコーヒーショップ「CABELO」。
メニューはコーヒーのみのコーヒー専門店です。店の目の前には熊野古道が通っており、トレッキングをする旅行者や、地元の人々がコーヒーを飲みに立ち寄ります。
今回は店主の辰巳和則さんに、コーヒーにまつわるお話やこだわり、近露へ移住してコーヒーショップを開いた理由などについて伺いました。
ペルー、エチオピア、インドネシア…季節と仕入状況で変わる世界各地の豆
SEN.RETREAT CHIKATSUYUで提供しているコーヒー豆は、特定の産地が決まっているわけではなく、季節や仕入れ状況に応じて変化するといいます。
「特に銘柄の指定があるわけではないので、その都度、産地も豆もバラバラです。今はペルー、エチオピア、インドネシア、ホンジュラスとかが多いですね」
お客様ご自身でコーヒーを淹れるコツを聞いてみましたが、「『この淹れ方が正解です』とは言いたくないんです」とのこと。
「粉や水の量が自分の適正値であれば、淹れ方は何でもいいんじゃないかと思っていて。押し付けがましくなるのが嫌なんです。ただ、お客さんに直接聞かれたら『量を測った方がいいですよ』とは伝えます。目分量よりは安定しますから」

焙煎してから2週間が、一番好きな味
コーヒー豆は、焙煎してからの日数によっても味わいが変わります。
「焙煎したてが好きな人もいるんですけど、僕は2週間目くらいが一番好きです。梅干しや味噌が、仕込んだばかりは塩辛くても、時間が経つとまろやかになっていく感じがあるじゃないですか。コーヒーも2週間くらいで少し落ち着いて、まろっとしてくる気がして」
一方で、1ヶ月半を過ぎると劣化が始まるため、賞味期限は約1ヶ月とのこと。
焙煎の際に大切にしているのは、豆の均一性です。
「お米を炊く時に異物が混じっていたら、炊き上がりがバラバラになるように、焙煎もそれに近いところがあって。豆の状態をきちんと見ながら、丁寧に仕上げることを心がけています」
コーヒー豆のことを、辰巳さんはよくお米や農作物に例えます。家族4人分の野菜とお米を自給自足している辰巳さんにとって、コーヒー豆の扱い方は農作業と重なる部分があるのだと言います。
「生豆で12パーセントくらい、玄米で15%くらいの水分が含まれているんですよ。保存の仕方とか、お米に近いと感じています」

コーヒーだけを、自分1人で
CABELOでは以前、軽食のメニューも提供してましたが、今はコーヒーのみです。
SEN.RETREATのような宿泊施設や飲食店への卸しが、売上の半分ほどを占めているといいます。
「商売が忙しくなりすぎると、農作業ができなくなってしまう。暇すぎず、忙しくなりすぎず、というのは心がけているところです。いろいろなことをやるよりも、1人でできる範囲内でやっていくのが自分には合っている。
そばもうどんもカレーもある店より、そばだけの店の方が好きで。専門店の方が、ちゃんとそれに向き合ってくれている気がするじゃないですか。消費者としてそう思うので、自分もそうありたいなと」
外国人旅行者からは、「(海外でブームとなっている)抹茶はないのか」と聞かれることもあるそうです。「申し訳ないけどしゃあないな、という感じですね」と、辰巳さんは穏やかに笑います。
以前、SEN.RETREATに宿泊した方がCABELOにも来店し、自身が経営する飲食店でCABELOのコーヒーを提供することになったケースもあるそうです。

コーヒーを選んだのは、「自分の好きなコーヒーかビール、どちらかで」
辰巳さんが大阪から近露に移住してきたのは、今から20年ほど前のこと。
当時は、熊野古道が世界遺産に登録されたばかりの頃でした。白浜あたりが観光地として賑わっているくらいで、近露など熊野古道周辺はまだ人が少なかったといいます。
「正直どこに移住しても楽しかっただろうとも思うんですけど。でも、近露に住んでみたら優しい人が多くて、住みやすいですね」
移住した頃から、辰巳さんには一つの思いがありました。
「田舎に住みたい、自分で商売したい、仕事と食べ物は自分で作りたい。その土地で何とか生活できたら、仕事は何でもよかった」
そこからコーヒーという仕事を選んだのは、単純な理由でした。
「自分が好きなのがコーヒーとビール。そのどっちかかなと思ったんですよ。ビールは設備を結構しっかり用意しないといけないし、コーヒーの方が規模感としても自分に向いているんじゃないかと思って」

低空飛行をコントロールする
お店の隣には、辰巳さんの妻が営む美容室があります。2人とも週4日だけ働く週休3日の暮らしを、長年続けています。
「週3日休みがあると毎週リセットできる。休みすぎると腐るイメージもつくけど、ほどよく時間も生まれるし、これくらいがちょうどいいですね」
今後の展望を尋ねると、「低空飛行をコントロールすること」と答えてくれました。
「どんな仕事でも続けていれば気づくことがあると思うので、地道に続けていって、何となく上達したな、仕上がってきたな、となったらいいなとは思っています。いっぱい儲けよう、商売を広げようとかはあまりなくて。自分のリズム、スタイルを崩さないようにやっていけたら、一番自分らしくていいかなと思っています」
技術や知見については上昇志向がある、とも語ってくれました。コーヒー豆を落とすスピード、豆の状態への感覚——それが少しずつ自分の手になじんでいく感じがあるのだと。
縛られずに自由に生きる辰巳さんの姿に、都会で普段暮らす旅行者は何かを気づかされ、ハッとさせられるかもしれません。気になった方はぜひ、CABELOに立ち寄って、極上の一杯を味わってみてください。

CABELO 店舗情報
住所:和歌山県田辺市中辺路町近露 909-6