

熊野古道“ツウ”が教える中辺路「滝尻王子〜熊野本宮大社」コース。2泊3日のリトリート旅へ!
蘇りの地と称される世界遺産「熊野古道」を歩いたことはありますか?
熊野古道とは、京都・高野山・吉野・伊勢から紀伊半島南部にある「熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)」を目指す参拝道の総称。JR紀伊田辺駅のある和歌山県田辺周辺から熊野三山を巡拝するメインルート「中辺路(なかへち)」をはじめ、約6つのルートがあります。
世界シェアNo.1の英語版旅行ガイドブック『Lonely Planet』で「訪れるべき観光地」と賞賛されて以来、世界中の人々がこぞって熊野古道を巡礼する一方、なんと日本人の約85%が「行ったことがない」と回答…!(株式会社日本ユニスト調べ)
「山道をひたすら歩くんでしょ? 面白いのかなぁ」と思っているあなたにオススメしたいのが、全長約105kmにわたる中辺路の前半「滝尻王子〜熊野本宮大社」を巡礼する約40kmのコースです。

案内人は、熊野古道の宿泊施設「SEN.RETREAT」の統括者である株式会社日本ユニストの取締役・山口和泰さんです。熊野古道に出会う前はトレッキング歴ゼロだったそうですが、今ではすっかり熊野古道“ツウ”。今回のコースだけでも5度歩き、毎月欠かさず大阪から熊野古道を訪ねています。
コース内には歴史的建造物や絶景スポットが多数あるので、この記事では山口さんの実体験に基づくおすすめの見どころをご紹介いただきます。いざ、心身ともにリトリートする2泊3日の旅へ!
滝尻王子(たきじりおうじ)
1日目、JR紀伊田辺駅からバス停「滝尻」で下車。徒歩約5分でスタート地点に到着します。
熊野古道沿いには、道中の守護を祈るために熊野三山の神々を祀った「王子」が100箇所以上あり、その多さを表現して「熊野九十九王子」と呼ばれています。そのなかで熊野三山の聖域のはじまりに位置しているのが滝尻王子です。
山口さん「滝尻王子の鳥居をくぐると一気に空気が変わります。聖域の入り口に立っているんだと肌で感じ取れるくらい、しっとりと澄んだ神秘的な空気が漂っているんです。参拝後、左手にある山道を進むと、すぐに急な石段の登り道が現れるので、きっとスタートから圧倒されますよ」

飯盛山(めしもりやま)の展望台
滝尻王子から徒歩約1時間、標高約340mの「飯盛山」の山頂付近に展望台が現れます。
山口さん「ここまでは木々に覆われた山道を進むので、展望台で一気に視界が開けます。目の前には熊野古道の美しい山並み、眼下にはジオラマのような栗栖川や中辺路の村。まるで上空から俯瞰して地図を広げているみたい。現在地と道行く先を把握して『さあ行くぞ!』と覚悟ができますね」

SEN.RETREAT TAKAHARA
展望台からさらに約1時間歩けば、セルフチェックインで最大10名まで泊まれる一棟貸切の宿「SEN.RETREAT TAKAHARA」に到着。和歌山産にこだわり、夕食には熊野の大自然が育んだ食材が準備され、クラフトビールや地酒片手にBBQやジビエ鍋を自ら調理して味わうことができます。
山口さん「おすすめは薪サウナです。熊野古道から丘を上がった先に宿があるので、プライベート感漂うなかで薪サウナが楽しめますよ。全面が木製で、和歌山産の柑橘を用いた100%天然のオイルでロウリュし、地元の名匠がつくった水桶風呂に入り、星空のもと森林浴…。心も体も整います」

高原熊野神社(たかはらくまのじんじゃ)
2日目、TAKAHARAから約6分歩き「高原熊野神社」へ。熊野古道沿いの神社で現存する最古の神社です。日本古来の伝統建築である檜皮葺・春日造の本殿は、県指定の有形文化財となっています。
山口さん「歴史深い社殿もさることながら、その社殿を守るように凛とした静寂にそびえ立つ3本の楠の大木があまりに見事で、息を呑みます。樹齢約1000年といわれているんですよ。やや奥まった場所に神社の入り口があるので、誤って通り過ぎずにぜひ立ち寄っていただきたい場所ですね」

近露王子(ちかつゆおうじ)
絶景スポット「高原霧の里休憩所」や、中辺路のシンボル的存在の石像「牛馬童子像」などの名所を渡り、5時間余り歩くと「近露王子」にたどり着きます。
山口さん「近露王子周辺はかつて本宮手前の最後の宿場町として栄えた場所で、現在は宿やカフェ、『熊野古道なかへち美術館』などもあります。その通り沿いにもかかわらず、境内に一歩踏み込むと一転して森閑。派手さはないですが、別世界にストンと入ったような感覚が印象深い神社です」

SEN.RETREAT CHIKATSUYU
近露王子から徒歩約10分で「SEN.RETREAT CHIKATSUYU」に到着。セルフチェックインで利用できる全7棟のコンテナハウス型の宿です。和歌山産の食材にこだわったジビエしゃぶしゃぶや石窯のピザづくり体験もありますが、巡礼者へのおすすめポイントはどこでしょうか?
山口さん「自然との接点の豊かさですね。旧宿場町の通り沿いに宿が集まる近露エリアでは珍しく、CHIKATSUYUは国道沿いにあります。なので宿の前は車道ですが、実は裏手に天然の自然が広がっているんです。春は桜が咲き、秋は栗や柿が実る。そばに綺麗な小川が流れているので、初夏の夜には蛍が舞って幻想的。宿の中央にある焚火台を囲んで、のんびりするだけでも気持ちいいですよ」

三越峠(みこしとうげ)
CHIKATSUYUから複数の王子を経て、4時間半ほど歩いて「三越峠」へ。口熊野と奥熊野の境界にあたり、昔はここに関所が構えられ、江戸時代には休憩スポットとして茶屋まであったそうです。
山口さま「あずま屋のような建物があるので雨風も凌げるし、朝7時頃に宿を発つとお昼頃に着くので、スケジュール的にもちょうどいい。近露エリアを過ぎた後は飲食店や売店がないので、事前に何か買っておくのがおすすめです。CHIKATSUYUでお弁当を注文いただくこともできます」

伏拝王子(ふしおがみおうじ)
三越峠から2時間半ほど歩き、標高200m余りの「伏拝王子」にやってきました。
明治22年の大水害を受けて熊野本宮大社は現在の位置に移設されましたが、かつて伏拝王子は長く険しい熊野古道を歩いてきた参拝者が、はじめて旧熊野本宮大社を望むことができた場所。山間に鎮座する社殿を目にし、誰もが伏して拝んだことから、この名が付けられたといいます。
山口さん「長い山道を抜けて石段の小道を上がった先に伏拝王子があります。現在見えるのは旧社地にそびえる大鳥居のみですが、それでも『ようやくここまで来た!』と感動します。近くにある『伏拝茶屋』では、たくさんの参拝者が温泉コーヒーや紫蘇ジュースでほっとひと息ついています」

熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)
伏拝王子から徒歩約1時間、ついに熊野本宮大社に到達。石畳の参道に構えられた神門を通ると、檜皮葺の荘厳な社殿が姿を現します。この社殿は国の重要文化財に指定されています。
山口さん「主祭神である家都美御子大神(すさのおのみこと)をはじめとする神々にお詣りするのですが、神門から先は神域なので撮影禁止なんです。写真や動画で残せないから記憶に刻もうとする。本宮を参拝しながら、これまでの歩みに思いを馳せる。深く考えさせられる時間です」

旧社地・大斎原(おおゆのはら)
熊野本宮大社から徒歩約15分で、かつて社殿が鎮座した「旧社地・大斎原」へ。高さ約34m・幅約42mの日本一大きな鳥居をくぐり、今回のコースが無事終了を迎えます。

ひとつの山を登っては下る一般的なハイキングとは異なり、熊野古道はいくつもの山々を登っては下ることの繰り返し。山あり谷ありの人生を映し出すかのような経験だからこそ、ぜひ多世代に一度は巡礼いただきたいと山口さんは話します。
山口さん「中高生の10代には『歴史の追体験』として、史実が集積した参拝道を繊細な五感を使って歩いてほしいですね。仕事やプライベートでも人生の節目を迎えやすい20〜30代には『挑戦の糸口』として、自分の本音に向き合い奮い立たせるきっかけにしてほしい。
人生の基盤が固まりつつある40〜50代には『原点回帰』として、固定観念をリセットして柔軟に今後を見据える機会に。仕事や家庭がひと段落する60代には『人生の回想』として、これまでの日々を巡礼の道になぞらえて人生を想う豊かな時間にしていただけたらいいなと思います」

熊野古道“ツウ”が教える滝尻王子〜熊野本宮大社コースはいかがでしたか?
今回ご紹介したのは、熊野古道のほんの一部です。この記事を読んで少しでも気になった方は、ぜひその足で熊野古道を歩いてみてくださいね。2025年6月27日には「SEN.RETREAT TAKIJIRI」がオープン予定です。滝尻王子の周辺で前泊したい方は、ぜひ併せてチェックしてみてください。