30年間、仕事一筋で走ってきた50代女性。巡礼道を歩き、「今に集中する感覚」を得る【熊野古道で人生を考える旅/モニターツアー】

2024.02.14

SEN.RETREATは、熊野古道を2泊3日かけて歩き、内省するツアー「人生を考える旅」を本格始動させるにあたり、2023年12月にモニターツアーを開催しました。
キャリア・結婚・セカンドライフ・別れなど、人生の節目に直面している方を募集し、熊野古道を歩くことで内面にどのような変化が起こるのかヒアリングを通して分析し、実際のツアー開発につなげる試みとしました。
この記事では、モニターツアーに参加された方が熊野古道を巡礼した際に、どのように心境が変化したのか、お話を伺いました。

《参加者紹介》
村尾佳子さん(52)
経営大学院の立ち上げやスタートアップのCMOとして、キャリアを歩む。
現在はMBAで教員を務めるほか、複数社で社外取締役やマーケティングのアドバイザーとして参画している。

仕事中心の生活から離れ、自然と向き合いたいと思い、熊野古道へ

――現在直面している「人生の節目」は何ですか?併せて、本ツアーに参加しようと思った理由も教えてください

休日返上でハードワークをひたすらずっとこなしてきましたが、50代になってから更年期の体調変化で思うように働けなくなりました。身体が思うように動かず、強烈に老いに直面しましたし、責任の重い仕事を任されているのにやりきれないことにも、大きな精神的ダメージがありました。

最近になって思い切って仕事を辞めたり減らしたりしたのですが、このペースを維持したい気もする一方で、もう少し増やしたいような気もして、今後の働き方について考えが揺れ動いているところでした。
熊野古道に行ってみたいとは長年思っていたのですが、仕事が忙しく時間が取れずじまいでした。
今まで仕事に偏った生き方をしてきたので、そうではないところに身を置いてみたい。緑にどっぷり浸って、真剣に自然と向き合ってみたいという思いから、参加を決めました。

熊野古道の雄大な自然に包まれた際に、どんなことを感じられるのかも気になりますし、旅を通して、働き方を含め今後の人生について後悔のない選択ができるようになりたいと考えています。

「無」になるのではなく「有」。自分が今ここに存在する感覚を得る

――2泊3日の旅を1日ごとに振り返っていただけますか

1日目は中辺路のスタート地点・滝尻王子から、SEN.RETREAT TAKAHARAがある高原地区まで、2時間歩きました。
この30年間ずっと、頭のどこかに仕事のことがあったので、熊野古道では思い切って仕事の通知をオフにしてみたんです。出発する前は、熊野古道を歩くことで仕事のことを忘れて「無」になりたいと思っていましたが、実際は「有」だと感じました。
雑念がなくなることで、むしろ自分が今ここにいることが際立って感じられたからです
。今この瞬間に自分が存在していることを全身で実感しましたし、瞬間瞬間をどれだけ感じられるかが、生きる上で大事だとも思いました。

常に動き続けて、未来のことを考えすぎるあまり今が見えなくなることもあったけど、今この瞬間を楽しむことが何よりも大切ですよね。目標達成のために計画を立て、相談が寄せられたら休日でも対応する日々を送ってきましたが、この旅を機に、「目標を立てないことを目標にしてみよう」と、肩の力が少し抜けました。

私は1人だけで歩いたのですが、誰にも会わず、チリンチリンという熊鈴の音を聞きながら、目の前の山道をひたすら歩くことは非日常の体験でした。しかも、はるか昔からこの道を多くの人が歩いてきたと思うと、1千年以上たっても同じ行動をしているって不思議だな、とつい考え込みましたね。

街中と違って、人工物がほとんどない山の中なので、昔の人とほぼ同じ景色を見ているのかもしれないと思うと、それもまた不思議な気持ちになりました。当たり前ですが、着ている服やライフスタイルは異なるけど、時代が変わっても人間そのものは平安時代から同じなんだなと。

道しるべも整備されていて歩きやすい一方、道中で出会った人は見事に外国の方だけだったので、もったいないなとも思いました。こんなに気持ちいいんだから、日本人ももっと来てほしいです。

「雨も良い天気」と捉えられる精神の広がり

――高原から近露まで約20km超を歩いた2日目は、雨でした

雨の熊野古道は神秘的で、雨の中でしか感じられない感覚や体験もできました。雨だけど、私にとっては良い天気でしたね。そうした捉え方ができることに、精神的な広がりを感じました。

1日目よりも人との出会いがたくさんあったのも印象的です。地元の飲食店のおばあちゃんと他愛無いお話をしたり、歩いているときにフィジーの方と言葉を交わし、地元の石鹸をいただいたり。

山深いところにある茶店跡を見て、交通網が発達した現代でも果てしなく不便な場所で、どうやって運営していたんだろうと、つい考えこみました。きっと昔も、「誰かの役に立ちたい」と思う人がサービスやビジネスをやっていて、そうした想いから仕事が始まるのは今と変わらないんだなと、しみじみ感じましたね。
現代はいくらでも仕組化できるようになりましたが、自分自身に心の充足があり、生きていると実感できる仕事こそやりたいとも思いました。


今までは上へ上へと成長することばかり追求していたけど、立ち止まることやチャレンジしない時間も必要かもしれない、と思えるようになりました。そういう意思決定をできる分、少し成熟できた気がします。
また、途中のお茶屋さんで出会った方に「おひとりで寂しいですね」と声をかけられたのですが、私自身は今回、熊野古道を1人で歩くことにものすごく価値を見出せているんです。同時に、自分の価値観で他人を評価してはいけないとも、自戒を込めて思いました。

人生の節目に直面したときは、再び熊野古道へ

――3日目は2日間の疲労も溜まっていたかと思いますが、いかがでしたか?3日間通して感じたことも、教えてください

太陽光が差し込む雨上がりの道がキラキラと輝いて美しくて、歩き始めから澄み切った気持ちになりました。
道中では牛のような大きな岩があったのですが、「この岩は大昔から多くの旅人を見てきたのかな」と思うと、いかに自分が一瞬通りすぎるだけの短い命なのかを思い知りました。改めて、毎日を大切に生きないといけないなと感じましたね。

3日間を通して一番印象的だったのは、「自分が今、ここに存在している」という日常では味わえなかった確かな感覚を得られたこと。限りある命を今生きているからこそ、未来がどうなるかなんてわからない。だから、小難しく考えすぎず、今に集中しようと思いました。
日常に戻っても、この感覚をしっかりと持ち続けたいので、歩きながら撮影した動画を時折見直したいと思います。そして、また人生の節目に直面したときには、熊野古道を訪れたいですね。

色々と迷いを抱えていましたが、自分の心が感じるように心に従って生きよう、我が道を行こうと決意しました。様々な気づきを与えてくれた熊野古道に感謝です。

★このモニターツアーを通じて開発した、内省を手助けするジャーナリングシート(キャリア編)をダウンロードできます。熊野古道を歩く際に、ぜひプリントアウトして持ち歩き、活用してみてください。

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