熊野古道の旅を支える、手作りのお弁当。箸折茶屋・浦タエ子さんの想い

2026.04.02

熊野古道中辺路の中継地として平安時代から栄えた宿場町・近露。
この地に店を構える「箸折茶屋(はしおりぢゃや)」では、店主の浦タエ子さんが作る食事が、多くの旅人の心とお腹を満たしています。

「SEN.RETREAT CHIKATSUYU」では、2022年秋より、浦さんが手作りするお弁当を夕食として提供する“おばあちゃんプラン”をスタートしました。現在は「SEN.RETREAT TAKAHARA」や「SEN.RETREAT TAKIJIRI」でも提供を開始し、朝食やトレッキング用のお弁当を含め、宿泊されるゲストの食を幅広く手がけていただいています。(※プランを選択された方のみ)

今回は、地域の人々に愛され、旅人を優しく迎える浦さんの取り組みや想いについて伺いました。

セカンドキャリアで始めた「旅人と地域をつなぐ場所」

箸折茶屋の店主・浦さんは、もともと飲食業の経験があったわけではありません。百貨店での接客や長年の経理職を経て、定年を機に「ずっと働いていたい」という思いからこの店を始めました。

当初は喫茶メニューが中心でしたが、無人運営のSEN.RETREATにおいて「お客様が地元の方と交流できる機会をつくれないか」と考えたスタッフが、浦さんにお声がけしたのが始まりです。

対話を重ねながら始まったお弁当づくり。まず大切にしたのは、“地元の食材で、地域らしさを感じられる内容”にすること。
そこで浦さんが主役に選んだのが、近露の清流で親しまれてきた「鮎」でした。当初は鮎の塩焼きを中心とした献立とし、特に日本人のお客様から好評でした。

プラン開始当時のお弁当

変化するニーズに、実体験を込めた工夫で応える

しかし、宿泊客の層が広がるにつれ、浦さんは柔軟に内容を見直していきます。 外国人の宿泊客が増える中で、「鮎が残っていることがある」という気づきから、現在は鮭やエビフライなど、より食べやすく見た目にも分かりやすいメニューへと変更。その結果、完食されることが増えたといいます。

また、連泊するお客様への細やかな配慮も欠かしません。 「昔、自分が旅行で連泊したときに、朝も夜も同じメニューが続いて…。それが嫌だったんです」自身の苦い経験を活かし、予約リストを確認しながら、同じお客様にはおかずを変える工夫を凝らします。一人で切り盛りしながらも、ベジタリアンやグルテンフリーといった多様な要望にも可能な範囲で対応するのは、旅人への深い思いやりがあるからです。

現在提供しているお弁当(※日によって内容の変更あり)
ヴィーガン向けのお弁当(※日によって内容の変更あり)

「人に食べてもらうのが好き」というシンプルな原動力

現在は、日によって80食近いお弁当を用意することもある浦さん。調理のほとんどを一人で担うハードな日々ですが、その原動力はとてもシンプルです。

「人に食べてもらうのが好きなんです」

お弁当を食べたお客様が、翌朝お店を訪れて「美味しかった」と感想を伝えてくれたり、感謝の手紙を残してくれたりすることもあるのだそう。その一言が、浦さんの日々のやりがいにつながっています。

また、箸折茶屋は旅人だけでなく、地域の人々にとっても大切な場所です。午前中には近所の方がコーヒーを飲みに訪れるなど、日常のコミュニティを支える役割も果たしています。
近年は物価高が続いていますが、提供するメニューは今も変わらずお手頃な価格のまま。

「食事に困っている人に、ちゃんとしたご飯を出したい」という浦さんの想いは、旅人と地域の境界なく向けられています。

「ずっと働いていたい」を形に

浦さんは、もうすぐ80歳。 かつては70歳で仕事を辞めるつもりだったといいますが、いざその年齢を迎えても、浦さんの足取りが止まることはありませんでした。

「やれるところまで、元気にやってみようかな」

そう語る浦さんの表情は、どこまでも朗らかです。その若々しさの秘訣は、きっと毎日誰かのために包丁を握り、お弁当という小さな箱に真心を詰め続けているからに違いありません。

「SEN.RETREAT」で提供される浦さんのお弁当は、単なる食事ではなく、作り手の歩んできた人生や優しさが込められた、ここでしか味わえない「体験」のひとつです。

当施設を訪れた際には、ぜひ浦さんの温かな人柄が滲むお弁当を味わってみてください。

箸折茶屋 施設詳細

住所:和歌山県田辺市中辺路町近露907-2
電話番号:0739-65-0033
営業時間:7:00〜15:30
定休日:月曜日
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/VpgR1AwwKQCh3n2L8

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