熊野古道の地形と地質がおもしろい!おすすめジオサイト8選

2022.06.16

世界遺産に登録されている熊野古道。平安時代から身分を問わず多くの人が「熊野三山」を目指して歩いた参詣道です。パワースポットとして知られ、海外からも多くの観光客が訪れる場所です。

実は、熊野古道は地質的にも非常に珍しい場所として知られているんです。大地のなりたちを知ることができる「大地の公園」はジオパークと呼ばれています。熊野古道のある白浜町・上富田町・すさみ町・串本町・古座川町・太地町・那智勝浦町・新宮市・北山村の 9 市町村は大地の歴史を実感できる壮大なジオパークなんです。

熊野古道の地質と岩石

熊野古道のある南紀熊野の土地の土台ができたのは、はるか昔、7000万年~2000万年前のことです。それから長い時間をかけて、大地が隆起したり曲がったり、火山活動によって地層が割れ、マグマが流れ込んだり…260万年ほど前に、今の地形を形成しました。

そのため、熊野の西側では地層が曲がったり割れてズレたりしている様子を観察することができ、火山活動が起こった東側の地域では火山活動による地層を観察することができます。

火山活動による地質には、マグマが固まってできた白っぽく、鉱物の結晶が大きい岩石や、火山灰などが固まった「火砕岩」が見られます。

熊野古道の地質がわかるスポット(ジオサイト)8選

ジオパークを楽しめるスポットを「ジオサイト」と呼びます。そこで今回は、熊野にあるジオサイト107箇所の中から、特におすすめのスポットを8つご紹介します。

これまで地質学に興味がなかったという人も楽しめるスポットになっています。また、熊野古道沿いにあるスポットなので、熊野古道のトレッキングをしながら、熊野の珍しい地質に触れてみてください。

何度も熊野古道を訪れている方も、「地質」という観点で各名所を見ることで新鮮さを味わえますよ。

ジオサイトに登録されている場所は「南紀熊野ジオパーク」公式サイトからご確認いただけます。

那智の滝

熊野三山のひとつ「熊野那智大社」。那智にはたくさんの滝がありますが、その中で最も高い滝が那智の滝(那智御瀧)です。「一の瀧」とも呼ばれ、落差133mと日本一の落差を誇る滝です。そのスケールの大きさは圧巻です。熊野那智大社の象徴的な場所であり、那智大社が建造される前から滝周辺には神々が祀られていました。

那智の滝は、マグマが急激に冷えてできた二酸化ケイ素を多く含む「流紋岩」と、柔らかい地層の境目にできた滝。流紋岩は浸食に強いのが特徴で、柔らかい地層が侵食される一方、流紋岩はあまり侵食されなかったために境目に滝が流れるようになりました。

熊野詣には欠かせないスポットなので、その神聖さを感じるとともに、珍しい地質についても観察してみてください。

地図

神倉山のゴトビキ岩

山の斜面に突如現れる大きな岩が「ゴトビキ岩」です。ヒキガエルのような姿であることから、地元の方言でヒキガエルを意味する「ゴトビキ」と名付けられました。自然にできた形とは思えない球形をしています。ゴトビキ岩のように球形に風化した岩を「コアストーン」と呼ぶそうです。

那智の滝と同じく熊野酸性火成岩類の流紋岩が風化してできたゴトビキ岩は、熊野速玉大社から徒歩17分のところにあります。『熊野権現御垂迹縁起』などの書物によると、神倉山のゴトビキ岩に熊野の神々が降臨し、景行58年に現在の場所に神々を祀るための宮が建てられたと言われています。その際、ゴトビキ岩の「元宮」に対して、「新宮」と名付けられました。つまり、熊野の信仰の原点とも言える場所です。

ゴトビキ岩は海からもよく見えるので、船の目印としても活躍しました。

この神倉神社には有名な「お燈祭り(おとうまつり)」というお祭りがあります。国指定無形民俗文化財にも指定されているこのお祭りは、毎年2月6日に2,000人近い男性が松明を持ちながら石段を駆け下りるお祭りです。参加者は白装束で腰に荒縄を巻いた「上(あが)り子」と呼ばれ、山門が開くと同時に一気に駆け下りる迫力ある上り子の姿を見に、多くの方が訪れます。

地図

清水峠の巨岩

清水峠は串本町と那智勝浦町の境界を通る古道です。熊野古道の中でも「大辺路(おおへち)」と呼ばれる道沿いにあります。串本町側の入り口に近い斜面をよじ登ると、大きなクジラの背のような丸い岩脈の上に出ます。これが「清水峠の巨岩」です。

清水峠は、日本の地質100選に選ばれている古座川弧状岩脈(こざがわこじょうがんみゃく)に沿っています。ここでは弧を描くように曲がった火成岩脈が観察できますよ。

古座川の一枚岩

巨大な岩壁が観察できる場所が「古座川」にあります。幅 500m、高さ 100m にわたってそびえる古座川の一枚岩は圧巻です。表面は川の流れによって侵食されて、非常に滑らかになっています。

約1500万年前~1400万年前に、約20kmにわたって形成されたのが「古座川弧状岩脈」です。マグマが地表へ噴出する際の通路になったと考えられています。この岩壁には「一枚岩の守り犬」という民話が残されており、毎年4月と8月に巨大な守り犬の影が出現します。

一枚岩を訪れたら、併せて観察していただきたいのが古座川の河川敷にある石ころたち。この辺りは火山活動によってできた岩石が多いので、マグマの固まってできた白っぽい石と、火山灰などが堆積してできた茶色っぽい「火砕岩」の両方がみられます。

救馬谷(すくまだに)

©︎公益社団法人 和歌山県観光連盟

紀南地方で最大の厄除け観音霊場である「救馬谷観音」。一枚岩と一体となった寺院が特徴です。

救馬谷の厚い砂岩礫岩層(基底礫岩層)は風化や浸食に強いため断崖ができ、その上に救馬渓観音が建てられています。海洋プレートが大陸プレートに沈み込む時にできる「付加体」と呼ばれる地質構造がみられます。

白浜の泥岩山

国指定の天然記念物に指定されている「白浜の泥岩岩脈」。先に堆積していた泥の地層が、上に積み重なった地層の重さで液状化し、上の地質の隙間に入り込んで数百メートルも上昇していきました。

その結果、「泥岩山脈」と呼ばれるおもしろい地層が観察できるのです。白浜は、いくつもの泥岩山脈がみられる貴重な場所として知られています。

フェニックス褶曲(フェニックスクリフ)

「褶曲」(しゅうきょく)とは、大昔の地質変動の痕跡のこと。フェニックスの褶曲は2000万年前から4000万年前の地質変動でできた跡だと言われており、そのスケールの大きさから海外の地質学文献や理科の教科書にも掲載されているほど。

砂岩層が完全に固まる前に陸側に押し付けられ折りたたまれた地層で、「つの字」「くの字」に折り畳まれた地層が観察できます。

かなり危ない場所なので、登山靴の用意は必須です。また、南紀熊野ジオパークセンターによるガイドツアーも企画されているので、初めて訪れる方はこちらを利用することをおすすめします。

橋杭岩(はしぐいいわ)

©︎公益社団法人 和歌山県観光連盟

橋杭岩とは、幅15m、長さ約 900 mにわたる岩の塔のこと。約1500万年前~1400万年前に地下からマグマが上がり、熊野層群に貫入したことでできた岩です。

橋杭岩から離れれば離れるほど岩の大きさが小さくなることから、大津波によって橋杭岩から岩が運ばれたと考えられており、これらの岩から津波の大きさを推測する研究も行われています。

弘法大師と天の邪鬼の民話や正直者と海坊主の民話が残されているほか、非常に珍しい鳥類・ウチヤマセンニュウの繁殖地でもあるため、地質学的な観点以外からも楽しめる場所です。

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