サウナの風呂桶を樹齢120年の紀州杉で作った88歳の職人「桶濱」
SEN.RETREAT TAKAHARAのKumanoko Saunaには、サウナ上がりに水風呂に入れる大きな紀州杉の風呂桶があります。この風呂桶を手掛けたのは、田辺市中辺路町野中の桶屋「桶濱」です。
1つずつ手作業で桶を作っている職人の松本濱次さんは、御年88歳。一度は桶職人を辞めたものの、60代から再び工房を構え、今も飲食店や個人客から依頼が絶えません。桶作りにかける思いやこだわり、生涯現役で現場に立ち続ける秘訣などを伺いました。
樹齢120年の紀州杉から、直径1mの桶を作り上げる
SEN.RETREATの水風呂用桶は、熊野の山で育った上質な紀州杉から作り上げられました。
直径1m×深さ60cmもあり、大人2人が入れるほどの巨大な桶です。木材として使用した杉は樹齢120年ほど。「樹齢を重ねた木の方が目が細かく、伸縮するので大きな桶にはピッタリ」だといいます。
最近は森林の手入れが行き届かなくなり、樹齢が高く質の良い木は減少しつつありますが、SEN.RETREATのために希少な木材を確保していただきました。
製作にかかった期間は約10日間。かんなで隙間ができないように削った板材を十数枚組み合わせ、たがという外枠にはめて、製作していただきました。
寿司桶や味噌樽、漬物桶……ありとあらゆる桶を手掛ける
松本さんが桶職人となったのは、終戦から間もなかった18歳の頃。
桶工房に住み込みで弟子入りし、熊野の山で育ったスギやヒノキを使って、味噌や寿司、醤油など、さまざまな用途の桶をつくりました。戦後の高度経済成長期の追い風に乗り、ひっきりなしに依頼が舞い込んでいました。
しかし、1960年代になると安価なプラスチックの普及により、木製の桶の需要が激減。勤めていた工房は廃業し、職人たちはバラバラに。その後は約20年間、製材所で働き、桶作りからは離れていました。
転機となったのは、60歳で定年退職した後、近所の人に「桶を修理してくれないか」と頼まれたこと。久しぶりに手を動かし、桶を修理したら、依頼主からその出来栄えを喜んでもらえたそうです。
これを機に、一度は絶たれた桶職人の道を、再び歩み始めることを決意。お客さんが寄りやすいように、国道311号線沿いに、桶屋「桶濱」を構えることとなりました(同じく311号線沿いにあるSEN.RETREAT CHIKATSUYUから2kmほどのところです)。
時代の流れにより需要が低迷した桶ですが、今はその価値が見直されています。木製の桶は水分を吸い取り、素材本来の味を引き出す。これはプラスチックにはない、木ならではの特徴です。
松本さんの桶作りの評判は口コミでじわじわと広がり、桶を求める人が今もひっきりなしに訪れています。
お客さんは飲食店やホテルのほか、寺社仏閣や、個人で味噌や漬物をつくっている人などさまざま。ワインクーラーやビールジョッキなど現代風の注文もあれば、中には200年前の刻印が入った桶もあるとか。商品がずらりと並べられた自宅の一室は、杉のさわやかな香りに満ちています。
桶を使った人が喜んでくれることが、自分の喜び
和歌山県名匠にも表彰され、その確かな腕が高く評価されてきた松本さん。
米寿を迎えた現在、暑い日も寒い日も毎日、屋外の工房で作業に打ち込んでいるといいます。
仕事のやりがいを尋ねたところ、満面の笑みでこう答えてくれました。
「『桶のおかげでおいしいご飯が食べれている』『使い勝手が良くて助かっている』といった話を聞くと、最高な気持ち。最近は、白米を入れるお櫃を作ったお客さんからお礼の手紙をいただいたときが、嬉しかったです。SEN.RETREATのお客さんにも、気持ちよくお風呂に入ってもらえたらなと思います」